伊藤 守氏 Vol.3

株式会社コーチ・トゥエンティワン/株式会社コーチ・エィ 代表取締役社長 伊藤守氏

◆プロフィール◆
株式会社コーチ・トゥエンティワンおよびコーチ・エィ代表取締役社長。
ほかに株式会社キャッチボール・トゥエンティワン・インターネット・コンサルティング代表取締役社長、株式会社ディスカヴァー・トゥエンティワン代表取締役会長を兼務。
日本にコーチングをもたらした第一人者であり、自身も企業・経営者団体などを対象とした研修のほか、個人コーチも手がける。
日本で最初の国際コーチ連盟マスター認定コーチ。

◆主な著書◆
「小さなチームは組織を変える」(講談社)
「コミュニケーションはキャッチボール」(ディスカヴァー)
「コーチング・マネジメント」(ディスカヴァー)
「もしもウサギにコーチがいたら」(大和書房)
「絵で学ぶコーチング」(日本経団連出版)
「リーダーになる人、ならない人」(ディスカヴァー)
「こころの対話」(講談社)
その他多数。

インタビュー

伊藤さんを見ているといつも自分自身への信頼度の高さを感じますし、そういう状態を作ることをとても心がけているように思えます。自己信頼が高いからこそ、先ほどの育休などにも対応できると思うんです。一般的に社長が口にするのは、育休で1年も間を空けられても困るとか、育休後は本当に戻ってきてくれるだろうかなど、相手に対する信頼度の低さみたいなものがどうしても出てきちゃうとこってあると思うんですよね。

人を信頼するのは、後天的な能力だって知ってました? あれは練習するしかないんですね。例えば、今、携帯電話があるから、人を信頼するトレーニングがすごく薄くなっているんですよ。待ち合わせの時間になっても来ない友人を「来る」と思って待つことを何回も繰り返す中で、人を信頼したり、自分を信頼するというトレーニングをするのですが、携帯電話があると「何分遅れるから」など、行動の変化を簡単にコントロールできちゃうわけじゃないですか。あれは、よくないですね。携帯電話は、自己信頼と他者信頼に対するレベルを落としてると思う。まぁ、僕は普段から秘書にトレーニングされていますけれど(笑)。例えばね、秘書が「何時に電話します」と言ってかかってこないとする、あとで「どうしたの?」と聞くと、小さな嘘とか言うんですよね(笑)。それで、僕は驚くわけだけど、でもね、みんな、小さな嘘をつくわけじゃないですか、何となく。それが自己信頼を奪うのだと思うんですよ。それで、僕が自分の自己信頼を失わないためにやることは、例えば誰かに騙されたとする。それでも、もう一回信じようと思うことが、自己信頼を高めていくと思っています。この人、今回は確かに話になんないけれど、もう一回信じようって思うわけ。すると性懲りもなくまた同じ事をしようとする、そうすると、「もうだめだよ」って口では言いながらも、でも、もう一回信じようってやっぱり思う。これって息子との関係でも同じだよね。もちろんそれが会社全体に関わることとか、こちらの境界線を越えるものはだめだと思うけれど。でも、僕は社員に対しては、多くの人がそれなりのリスクを負って働きに来てくれるわけだから、僕で受けられる範囲だったら、もう一回この人にやらせようという気持ちはあると思う。

「あなたが嫌いだと思う人やこと、それは神様からの贈り物」っていうのを先日著書の中で書いたんだけど、どこかでそう思っています。最終的には、人を信じている僕はうまくいくなっていう実感はあるね。息子に対しても最後まで信頼してるほうがうまくいくような気がするし。途中で、ぷつっと切れて、遠山の金さんになっちゃったり、印籠を出してしまって、「この紋所が目に入らぬか」とやってしまったら、また来週もやらなきゃいけなくなる(笑)。それはやっぱり苦しいですよね。何か話が違うなと思っても、それは通過できるものなんだよ。一生残るものではなくて通過していけて、それを通過すればするほどなんかいい感じになる。こういうのを逃げていると、人とはつき合えないなって感じがするんだよ。

まさに、伊藤さんがよく著書に書いている、「かかわりの中に飛び込む」ことですね。

そうですね。
あと僕には後ろはないんだよ、もう。戻るところは基本的にないし、逃げるところもないというところで生きているから、僕が受け身になったら、その瞬間に全部だめ。あらゆるレベルで受け身にならないようにしないといけないよね。だから、ちょっとした気持ちの妥協とか、「まあいいか」なんていうのを許してしまうと、1週間後ぐらいにマンネリ化がやってくる。会社はマンネリ化させちゃいけないと思う。会社は変わり続けるべきだと思う。「安定成長」なんていうのは、逃げ腰の社長のセリフだと思っている。急成長させるか、させないかどっちかだと思う。

それ、言葉は結構きついですけれど、今話している伊藤さんから全然苦しさを感じないんですよね。そこにやっぱり楽しさや面白さとか感じるんですけど。でも私たちはこういうことを考えるとそこに苦しさや激しさがあったりします。

そういうの、好きなんじゃない。僕、嫌いだもの。そういうジメジメしたのが好きなタイプっているのよ。そんなことより会社が急成長して100億円儲かるかもしれない、1,000億円儲かるかもしれない、1兆円とか2兆円っていう売上に耐えられるんだろうかっていうことのほうがチャレンジとして、大きくないですか? ある売上、あるニーズ、ある状態に自分はどこまで耐えられるんだろうか、という恐れのほうが大きくて、おれはここまで頑張ったなんて、そんなくだらないことを言っている暇ないんだよ。それよりもっと怖いのは、先にやってくる大成功のときにどうするの、というほうがもっと怖いでしょ。そっちのほうが身の毛がよだつ感じがして、そんな……。いいんですよ、今なんかまだ準備の準備しているようなもんだからさ(笑)。

コーチとしても、そこに視点を向けるようなコーチをしなきゃいけないっていうことですね。

当然だよ。

ですよね。はい。

だから、ゆっくり成長とか、前年度比何%とか眠たい話はやめてくれだよね。やる気のない人にコーチをする気はない。やる気を出させたくないからね、僕は。でも急成長したいというのはすごい大事だと思う。急成長はきちんとセオリーを踏めばいいだけだから。例えばどうしたら3年間で2億円のビジネスモデルを作ることができるか、について僕がコーチするとしたら、年間2000万で契約をする。本気ならそうでしょ。

はい。ただ、気持ちはあってもやっぱり私たちの目標に対するコミットメントってぶれるじゃないですか。そういうのってどうしたらいいんでしょうか。

コミットメントなんて三流人のセリフなんだよ。大事なのは、情熱だよ。コミットメントなんかでは会社はやっていけない。燃えるような情熱を持ち込まないとやっていけない。子育ても情熱だよ。

ただ、情熱も続かないんですよ。

それはゴールが低いからだよ。のるかそるかの勝負をしないで、例えば、ばくち打って100万円儲かりました。じゃあ、80万円貯金して20万円でもう一回賭けましょうと思っていると、燃えないんだよ。もう一回100万円賭けちゃえば、燃えるよ。燃えるってそういうことでしょう。会社もどうしたら社員に情熱を持ち込んでもらえるのかについて考える必要がある。社員が「頑張ります」と言ったら、「頑張るな、情熱を持ち込め」と言っている。情熱を続けるためにはいつも変化していなければいけない。昨日と同じ今日を作ろうと思うともうだめだよね。もう何でもいいから変えるんだよ。パンツでも靴下でも(笑)変わることはいいことなんだよ。

昨日と違う今日を作るために伊藤さんは何をしているんですか?

やっぱり僕は人が好きだから、朝起きて多分すぐ人のことを考えていると思う。奥さんと子供は側にいるから、見れば、いるなと思うけれど。今日、出会う人とか、出会うだろう人のこととかをすぐに思っているような気がします。

最後に、日本にコーチングを導入した第一人者としての伊藤さんから、コーチングの今後について思っていることを聞かせてください。

日本ではまだコーチングはようやく出てきたような感じだけど、アメリカでは一般用語なんですね、コーチは、インターナル(internal:社内)コーチとエクスターナル(external:社外)コーチというふうに分かれていて、自社にインターナル・コーチを何百人も作ろうとしているような会社がたくさん出てきています。この間、大阪の紀伊国屋書店で、『コーチングマネジメント』(ディスカバー刊)が630冊ほどまとめて売れたそうです。どこが買ったのか調べたら、P&Gが買っていることが分かった。P&Gは社内コーチを200人~300人育てている。レブロンやクレディスイスとか、そういうところでインターナル・コーチをたくさん育てていて、コーチングとは何か、ではなくて、コーチングをどのように使おうかという動きがすでにあります。
例えば、インターナル・コーチの場合には、360度フィードバックをどのように解釈するかということについてだけコーチをするとか。タイプ分けだけにフォーカスしたり。オリジナルのアセスメントがあり、それをどのように使うことによってその人にどんな効果をもたらすのかというようなところにシフトしています。
つまり、コーチングと言うと、「コーチングをする」だけのビジネスのように言われていますが、大事なのはコーチングをすることによって生み出すであろうビジネスインパクトは何か、そこで生み出されるベネフィットは何か、ということを事前にはっきりさせて行う必要があります。さらにその場にベネフィットを生み出すために、コーチングである必要があるのかっていうことについては検証しないといけないと思う。日本では何でもコーチでもっていこうとしちゃうんだけど、時にはティーチングのほうが早かったりする場合もあるし、ほかの方法がすごく有効な場合ってあるわけじゃないですか。だから、なぜこれがコーチングでなければならないのかということについて充分検証した上で、そこにコーチングをもってくるというのは、やはりすごく大事な点だと思っています。
だから、僕は、コーチングでもたらすことのできる結果については狙いを定めています。それ以外の部分に関しては、必要ならばコンサルタントをつけてドキュメントを作ってもらったり、もしかしたらシステムを作ってもらうという方法も取ります。全部コーチングで解決するわけではない。
実は、大事になってくるのはコーチングのプロセスよりも目指すターゲットだと思っている。そのターゲットさえ確実に実現していれば、コーチングという手段はまだまだ使えると思います。でも、ターゲットのない人にとってのコーチングは、メンタリングや、カウンセリング、コンサルティングというのと、本当にミックスした玉虫色になってしまって、わからないものになるんだろうなっていうふうに思う。
アメリカでも日本でも、コーチングに関して出版されている本は、コーチングについて書いているのか、メンタリングについて書いているのか、カウンセリングについて書いているのかよくわからない本が、やっぱり多い。だから、できるだけコーチングっていうのを、セグメントするような動きが必要でしょう。
そのために僕は今、コーチ研究所というNPOをもう一つ創って、本当にアカデミックに、何がコーチングで、何がコーチングじゃないのかということや、世界の学会の様子などを情報として提供して、コーチにも勉強してもらおうと思っています。それから、コーチングを受け入れる企業の人事部の窓口の方にもそういった情報を読んでもらって、コーチとはこういうものである、という前提の中で、安定してコーチを受けてもらいたいと思っています。ここまでやることで、今ちゃんとやっているコーチやコーチングを受けるクライアントを守りたい、つぎはそういう仕事をしようかなと思っています。

本当にありがとうございました!

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